「申し訳ないけど、ピアノを弾くのは午後4時以降にしてくれないか」
そんな通告を受けたのは、去年の11月くらいだった。
幸い、少し前に電子ピアノを買っていたので日中の練習はそれで済ませ、
レッスンや仕事がない日の午後4時〜7時の3時間でなんとか本番用に体を調節する、
という日々を過ごしている。まぁそれで、今のところなんとかやっている。
ただ、レクチャーコンサートをするにはちょっときつい。
午後4時から始めるにしても、その前に全くピアノに触れないのは厳しい。
そんなことで、今回から外の会場を借りて開催することにした。
たまたまネットで検索して見つけた会場だったが、新しくて雰囲気も良くて、
対応してくれたスタッフの方もとても親切だった。下見に行き、即決した。
実はその通告の前に、次回はどこか他の場所で、ということを考えていなくもなかった。
前回までの古典のソナタの流れを一度断ち切って、ロマン派の小品の流れに入るために、
第五回は誰もが聞いたことのある有名な曲をいくつか取り上げるつもりでいた。
少し大きな会場でするには、ちょうどいい内容だ。
ショッキングな通告ではあったが、それが結果的に背中を押してくれる形になった。
大谷さんと打ち合わせの時に、何曲か弾くうちの、何か一曲をメインにしようという話になった。
私もそれに賛同し、何をメインに据えるか考えたところ、何をどう考えても
「エリーゼのために」しか無いように思えた。でもそんな簡単な曲で人が集まるだろうか。
大谷さんは言った。
「その曲が技術的に簡単か難しいかというのは、聴き手にとって重要じゃない。
それよりも、楽譜を読んで、曲の世界を見て、それから演奏を聴くことで、
曲をより深く味わうということが趣旨だから」
そうだった。練習ばかりしていると忘れそうになるけれど、
私がレクチャーを始めたのはここが原点だった。
大阪に来て、心理を学んで、どんなに素晴らしい話も
その人に受け取る素地がなければ伝わらないことを知り、
その素地を作るための場作りという手法を学んで、
それをコンサートに応用したのがこの「レクチャーコンサート」だった。
サントリーホールでのブーニンのショパンを、ほとんど考え事をしながらやり過ごしていた
幼い日の私に、「面白かった!」と言ってもらえるようなことがしたい。
有名で人気がある曲は、本当のところ、どこが面白いのか、どう素敵なのか。
ひとつひとつ本当に楽しそうに語ってくれる井上直幸さんの映像が蘇る。
人の楽しみ方を見て、自分も楽しめるようになる、というのは往々にしてあることだ。
面白さ、楽しさを伝えたい。開催の動機はこの一点に尽きる。
この機会が、ベートーヴェンや、モーツァルトや、
色々な作曲家と出会うきっかけになってくれたら、この上ない幸せだ。
山本明日香
=== 【日 程】
2020年3月29日(日)14時~15時半
・ベートーヴェン「エリーゼのために」 ・モーツァルト 「トルコ行進曲」 ・ドヴォルザーク「ユーモレスク」 ・ドビュッシー 「月の光」 ・リスト 「愛の夢」
以下、日時が確定しました。会場はLa Paz(ラパス)です。 第6回 2020年7月12日(日) 14時から15時30分 第7回 2020年10月25日(日) 14時から15時30分
【過去の開催履歴】
第1回 2018年12月16日 モーツァルト・ピアノソナタ k.330ハ長調 第2回 2019年3月10日 ベートーヴェン・ピアノソナタ第5番 Op.10-1 ハ短調 第3回 2019年7月15日 シューベルト ソナタ第13番 D664 第4回 2019年11月24日 ハイドン・ピアノソナタ変ホ長調 作品82 Hob.XVI:52 ※第1回〜第4回まではSAKURAGAWA PIANO ROOMにて開催。
【解説・演奏】
山本明日香(ピアノ)
【内 容】
楽譜を深く読み込んで具体的な詳しい解説を行ったあと、その曲を演奏します。演奏のみのコンサートと異なり、レクチャーを受けることで、作曲家や演奏家がやり取りしている世界の中で曲をより深く聴くことができるようになります。
【場 所】
La Paz(ラパス)(大阪市、天神橋筋六丁目) アクセス http://lapaz106.com/access/ ※会場が変わりました。
【参加費】
2,500円 ※価格変更しました。
【主 催】
山本明日香・大谷隆
【お申込】
yamamotoasuka38@gmail.com(山本)か
marunekodo@gmail.com(大谷)まで。
【山本明日香プロフィール】 1989年生まれ。群馬県出身、大阪市在住。A型、魚座。東京学芸大学G類ピアノ科修了。大学卒業後大阪に移住。2011年、自宅にてピアノを教え始める。現在、自宅の他にソフィア音楽教室(奈良)と精神科のデイケアセンター(兵庫)にてピアノを教える。2015年10月にSAKURAGAWA PIANO ROOMを立ち上げ、「誰でもわかる 楽しいレッスン」をモットーに、毎月20名以上の指導にあたっている。ピアノや音楽に関して「思うこと」を「Column」として少しずつ書き綴っている。
【大谷隆プロフィール】
編集者。言葉の場所「まるネコ堂」代表。宇治市出身。大学で機械工学を学んだものの博士課程で研究に挫折し中退。文章の仕事をしたいと思い、企画編集会社、NPO出版部門で勤務。その後独立。生きている時間の大半を考え事に費やしつつ、マンツーマンの編集面談、寄ってたかって本を読む「まるネコ堂ゼミ」、「自分の文章を書くための講座」、「言葉の表出合宿」等を行う。猫とコーヒーが好き。
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【主催大谷隆よりご案内】
「シューマンはこんな喋り方しない」 ピアノを前にして、実際にフレーズを弾き比べながら、まるでさっきまで一緒にいて語り合っていたかのように、有名作曲家のことを口にする明日香さん。それも割と親密な関係の。 「モーツァルトが好きな言い回しは、」 モチーフや展開ではなく、言い回しという言い方から滲み出てくる楽譜を読むという体験の一端。 クラシックピアノの演奏家は、曲を演奏するためにいったいどんなことをやっているのか。どんなことが起こっているのか。というのは知っているようで知らないことでした。 演奏者が楽譜をどう読み、どう演奏として実現させているのか。言い換えると、楽譜を通して作曲家はいったいどんなふうに話しかけてくるのか。それに演奏者としてどう応えるのか。 そんな作曲家と演奏者との濃密なやり取りの世界に、僕たちも連れて行ってもらえれば、果たして曲はどう聴こえてくるのか。 レクチャー(講義)の語源は、ラテン語の「読むこと」。フランス語ではレクチュールです。楽譜を読み(レクチュール)、それを話す(レクチャー)コンサートという意味でタイトルをつけました。 自分自身で詳細かつ具体的な説明をした上での演奏という、演奏者には大きな負担がかかるコンサートですが、聴く方にとっては、とても贅沢で、特別な体験になるはずです。