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Column コラム

第2章 レッスンについて思うこと

「ピアノは好きだけど先生が怖くてやめた」「先生から言われることがわからなくて

困っている」など、レッスンに悩む人は少なくないだろうと思う。

かくいう私も、悩んできたうちのひとりだ。

きっと先生から見たら私は教えにくい生徒だったに違いない。

コンクールで賞をもらうくらいうまく弾ける時もあったけど、全くダメと言われること

も多く、自分では良い時と悪い時の違いが全くわからなかったので、先生の一言一言に

一喜一憂する、そんな生徒だった。

教える側になって思うが、こんな生徒は大変だ。これは技術以前の話だと思う。

ピアノを習って、うまくなって、コンクールで上位に入賞したりする人は、

おそらくピアノが好きで、「上達したい」とか「この曲が弾きたい」という

目的のためにレッスンを受けに来ている人、じゃないだろうか。

こう書くと、それはとても当たり前なんだけれど、意外と皆そうじゃない。

幼い子の場合は、何もわからないうちにお母さんに連れてこられるのが常だし、

お友達が通っているから、やめるのはもったいないから等の理由でなんとなーく

レッスンに通っている人が、実はほとんどだと思う。​

自分本位でレッスンに来ているかどうか。習いたくて来ているかどうか。

実はレッスンの効果を最大限に受け取るには、そこが一番大事で、そして同時に

ここが日本のピアノ教育で一番おざなりにされているところなんじゃないかと私は思う。​

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はじめに」にも少し書いたが、私は物心付く前にピアノを習わされていた。

その後も「ピアノが好きだ」と思うことなく、先生に言われるまま

なんとなく続けて、中学卒業の頃、「音大に入りたい」と急に思った。

そんなだったので、高校時代が大変だった。

今までそんなに力を入れてこなかったのに、急に「音大受験する」と決めたもんだから

何段飛びかをしてショパンのエチュードやバッハの平均律や、ベートーベンのソナタなど

大曲を練習しなければならなかった。ソルフェージュも別の先生についたりして、先生

3人がかりだった。8時間練習しなさいと言われたりして、ものすごく大変で、鬱になり

かかったと思うけど、なんとか私がピアノ科に入れたのはこの時に尽力してくれた先生方

のおかげだ。

しかし、大学に入っても特に変わりはなかった。相変わらず自分では自分の演奏が

良いのか悪いのかわからなかった。同じことをしているつもりでも、聴いている人は

困った顔をしたり喜んだり、時々によって違っていた。

そんな世界がある日一変する。大学の図書館で井上直幸さんのDVDを見て、衝撃を受けた。

こんなに楽しそうにピアノを弾く人がいるんだ。ピアノを弾くことって楽しかったんだ。

そんな衝撃。この人が見ている世界を知りたいと思った。それからが、私のピアノ人生の

本当の始まりだった。

そこから少しずつピアノが楽しいもの、になってきた。本当に、段々と。

そうなると研究する。レッスンなんかなくても自分で勉強する。本も読むし、人の演奏を

聴き比べたり、楽譜を眺める時間が増えたりする。そして、もし今レッスンを受けられる

としたらどれだけ助けになるだろうか、と思ったりする。あぁ、昔に戻りたい(笑

そんなことを実感しているので、まずは生徒の気持ちやモチベーションが一番大事だと

思っている。やりたくないのにやらせてもなんにもならない。やりたいと思うことが

一番。あとはそれから。生徒に「やってみたい」と思ってもらうようなパフォーマンス

をすることが、先生の一番の役割だと思っている。

余談だが、私は歌が好きだった。

歌がやりたいと言っていた小学校のうちに、歌の先生についていたらまた全然違った

人生になっていただろうと思う。

子供がやりたいと言うことをやらせてあげたい。「やりたい」と思う気持ちは、お金を

払ったからといって手に入るものじゃない。やりたいことをしている時の子供の成長は

本当にすごい。たまにスーパー小学生なんて言われる子がテレビに出ているが、好きな

ことをやらせたら、実は皆そうなるんじゃないかと思ったりしている。

大事なのは、大人が「まだ小さいから無理」とか、「それはよくない」と決めつけない

こと。せっかくやりたいと思ったことを、子供から奪わないこと。大人はいつでも余計

なことをする。先生は特に。見守る、寄り添う。それだけで子供は勝手に成長する。

教えなくても、植物は日のあたる方へ伸びるし、水のある方へ根を伸ばす。

都合のいいように矯正しようとしないこと。助けの必要な時だけ傍にいる、

そんな先生でありたい。

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私の大事な師に、橋本久仁彦さんという方が居る。

彼は高校で「教えない授業」というのをしていた。私はそれを直接見たことがないけど、

話を聞いたり、書類整理の手伝いをしていて、その高校生たちの書いたレポートを

ちょっとだけ見たことがある。かなり専門的な内容もあり、なかなかすごかった。

好きなことをさせたら、人は皆勉強するんだと思った。それに、文字が生き生きしていた。

ひとりひとりの笑顔が浮かぶようだった。この子達は、この時間が本当に好きだったんだ

な、と思った。

私は好きなことをやりたいし、レッスンに来る人にも好きなことをやらせてあげたい。

それが仕事になるかどうかとか、将来に役に立つかどうかは別にして、ただ好きなことを

やらせてあげたい。好きなことのできない人生なんて、全然面白くないじゃないか。

少なくともレッスンの時間は「好きなことが出来る時間」であったらいいなと思っている。

(2017/3/6 更新)

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